3月(178回) 講演要旨・質疑応答

地域文化学会第178回月例研究会・公開セミナー 2013316日(土)

講師:原田朗先生(元気象庁気象研究所長、防衛大学校地球科学科教授)

テーマ:地域文化を支える地球環境

 

 東日本大震災にみられるように、大地震、大津波又は放射能による災害は21世紀の社会に難題をもたらしている。また、地球温暖化(global warming)とそれがもたらす気候変動(climate change)の問題は1992年のリオ会議等で政治の主要課題として議論されてきたが、根本的な解決策を提示し得ないままである。これらを研究する学問である気象学(meteorology)、海洋学(oceanography)及び地震学(seismology)を柱とする地球物理学(geophysics)を簡潔に紹介した上で、気候変動について、原田先生の見解が述べられた。

 地球物理学の中でも気象学は、ラジオゾンデ、レーダー及び衛星画像を用い近年の進歩が著しい。これらの装置が電波によって多量の情報を送受していることからもわかるように、気象の分野における近年の進展は電波通信によるところが大きい。一方で、地震学の対象である地球の地殻や海洋学の対象である海洋はともに電波が通らず、地震の予測は困難で今後も解決の目途は立っていない。

 さて、地球温暖化を考える際には地域的ではなく全球的に(globally)把握する必要がある。温室効果気体の主要成分である二酸化炭素は大気の0.04%を占めるにすぎず、窒素(79%)や酸素(21%)が大気の大半を占めている。過去百万年の氷期・間氷期は寒暖を繰り返し、数千年から数万年の期間に1℃の気温の変動があったのみだが、過去1世紀に気温は1℃上昇しており、これは化石燃料の急速な大量燃焼に対応していることが統計的に見てとれる。

 1938年に英国人技術者ガイ・カレンダー(Guy S. Callender; 1898-1964年)によって初めて地球温暖化は指摘されることになるが、1958年にはキーリングによってハワイ島で二酸化炭素の測定が開始された。1988年には、気候変動に関する政府間パネル(IPCC; Intergovernmental Panel for Climate Change)が設置され、気候変動に対する科学的知見を検証し、影響を評価し、対応戦略が議論された。1992年には気候変動枠組条約が締結され(米国は未批准)、同条約を受けて1997年に締結された京都議定書においては1990年比の二酸化炭素削減目標が国・地域別に設定された。また、2001年に公表されたIPCC4次報告書において温暖化は疑う余地はないとされた。降水量の増減、熱帯低気圧の北大西洋での強化等も地球温暖化との関連が指摘されている。

 上記のように地球温暖化が指摘される中でいわゆる「地球温暖化懐疑論」が喧しく喧伝されている。例えば雑誌「ニューズウィーク日本版(200881日号)」においては「地球温暖化はでたらめだ」というセンセーショナルな表紙が使用される等、各種週刊誌等において地球温暖化問題に対する多様な意見がみられ、これら意見の背景には様々な要因が考えられるが、地球温暖化は上述のように科学的にみて進行していると考えられる。

  

[質疑応答](敬称略)

上記の講演に対して、以下の質疑応答がなされた。

 

(聴衆1)オゾン層の破壊が皮膚がんの増加の原因の一つとして考えられるが、フロンガスの使用禁止等のオゾン層保護に関する国際社会での取組みには、人種の問題もかかわっているという指摘があるが、どのように考えるか。

(原田)大変に興味深い問題だと思う。

 

(聴衆2)地球温暖化は不可逆点(no-return point)を超えたか。

(原田)本会の機関誌「地域文化研究」第13号(96-110頁)に小林宏先生が「〈塔〉の思想と「文明」の臨界」として論考を書かれている。この論考にいう「臨界」という概念が大変に興味深く、「臨界」というものについて熟考しているところである。

 

(聴衆3)地球温暖化と洪水の関係性についてどう考えるか。

(原田)気候変動及び地球温暖化は複雑系の問題であり、中々難しい問題がある。因果関係について明確に説明することは困難であると考えられる。

 

(聴衆4)東半球に位置する日本における気候変動の影響についてどう考えるか。

(原田)例えばヒマラヤ山脈がある場合とない場合に気候がどのように変化するか等の研究がなされている。

 

以 上